「いやいや、ちょっと待て、でも鼻はたぶんヤバいって!」
「いや大丈夫ですって。祖母が言っていたんです。祖母を疑うんですか?」
「いや、そういうわけでは……」
疑わないなら、従うべきだ。
「じゃあちょっとやってみましょうよ。先人の教えに従えば、大体のことは上手くいくのが相場というものです」
「まぁ、そう言われれば、確かにそうかも……」
承諾し気が緩んだナスタニさんの鼻の奥へ、僕は一気に箸を射し込んだ。ナスタニさんは変な声を上げたが、気にはしない。
良い具合に大根おろしが鼻へと詰まる。
勢い余って思いのほか深く挿入してしまった気がするが、幽霊なのでたぶん大丈夫と信じている。少なくとも、死にはしない。
「どうです、ナスタニさん? お腹、まだ痛みますか?」
少し間を空けて、答えてくる。
「……いや、腹は痛くない」
――それは良かった。
「腹は痛くはないけど……」
「けど?」
「鼻が痛い」
――それは良くない。
「痛いというより、すごく痛い。いや、からい。いや痛い!」
ナスタニさんはまた悶え出した。
「いや痛い! メチャクチャ痛い! 鼻が痛い!染みる! 大根が! 辛い! 痛い! 腹の痛みとかどうでもいいくらい、鼻が痛い! いやそうだろ、大根入れたら辛いよそれは!」
ひとしきり喚いた後、ナスタニさんは痛いとしか言わなくなった。
僕は困惑し、少し考える。
どういうことだろう。
祖母は大根おろしで治ると言っていた。
でも、ナスタニさんは悶えている。
どういうことだろう。
僕は更に考える。
もしかしたら、辛味の強い夏大根を使ったのが悪かったのかもしれない。
甘味の強い冬大根なら、あるいは。
――うん、きっとそうだ。
しかし、鼻の痛みに気を取られ、腹の痛みは気にならなくなったようなので、そういった意味ではやはり祖母の教えは間違っていなかったのだと、僕はなんだか満足する。
というより、大げさなナスタニさんのことだ。きっと鼻の痛みも気のせいだ。たぶん。
僕が納得するその隣で、ナスタニさんは悶え続けていた。
コメント