おろすか、切るか、へし折るか⑫(終)

おろすか、切るか、へし折るか



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 しかし、このままにしておくのも忍びない。

 僕はどうしようかと少し考えを巡らせ、声を掛ける。

「ナスタニさん、なんかすみません。でも、たぶんもう僕には無理です。大根でダメなら、もう無理です」

「おぉぉいマジかよ無責任かよ、余計酷くなってるよ! 腹なんかよりよっぽど酷いよ!」

 まぁ、少し申し訳なくは思う。

「じゃあ、もしアレなら成仏してみませんか?」

「いや今関係ねぇ! 痛ぇーーーーッ!」

「でも、この世に幽霊を診れる医者はいませんけど、たぶんあの世なら、元医者の幽霊もいると思いますよ」

 そう言うと、ナスタニさんは一瞬止まる。

「……確かに!」

「いや、でもまだこの世に怨みがあるんでしたっけ? なら、暫くは諦めますか?」

「いやもう、どうでもいいよ! 鼻の痛みがとれるなら、なんでもいい!」

 

 ――なんだろう、押し切れそうな気がする。

 

「じゃあ、成仏しましょうか、ナスタニさん」

「そうする!」

 そう答えたナスタニさんの体が、更に透明になっていった。

 幽霊が成仏するところには初めて立ち会ったが、やろうと思えば自分で成仏できるのか、と少し感心する。

 

 消えゆくナスタニさんから、世話になった、とうっすらと聞こえた気もしたが、僕はむしろ苦痛を与えただけなので、それは気のせいだったのかもしれない。

 

 暫くするとナスタニさんは完全に消えた。

 目論見とは少し違ったが、過程はどうあれ除霊を完了した僕は、誰もいなくなった墓の前で少し考える。

 

 ――次に依頼が来たら、初めから大根を持ってこよう。

 

 しかし、そんな決意はすぐに頭から離れ、僕は足早に隣のアパートへと向かった。

 

 女子大生に誉めてもらう。

 その圧倒的な吉事の前では、幽霊も大根も祖母の教えも、全てが色褪せていった。

 

 

 

〈了〉



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