おろすか、切るか、へし折るか③

おろすか、切るか、へし折るか



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 少し、依頼主とメールでやり取りをした。

 会話を重ねると、少なくともまともな人間には思えてくる。

 少なくとも文面上では礼儀正しく、腰も低い。

 

 僕はその依頼主が頭のおかしい人間ではないことを理解し、依頼を受けることにした。

 

 メール上で依頼内容を確認する。

 依頼主曰く、自宅近くの墓地から、毎夜のように呻き声が聞こえるらしい。

 他の人には聞こえないと言われたらしく、少し混乱していた。

 僕の経験上、幽霊の呻き声も聞こえる人と聞こえない人がいるようなので、どうやらこの依頼主は霊感が強いタイプのようだ。

 しかし、勇気を出して現場を見に行っても何もいなかったらしく、おそらく視認は出来ない程度の電波状況の悪さのようで、ある意味ではそれが一番可哀想な状態なのだろう。不可思議なものがあるにも関わらず、正体がわからないのであれば、それは確かに恐ろしい。

 

 文面から察するに、この依頼主はおそらく純粋に助けを求めている。

 由緒ある除霊師に依頼しようとも考えていた矢先、『料金は応相談、近辺優遇』とされた僕のサイトに目が留まったらしい。依頼主はまだ大学生のようで、金銭的な厳しさから泣き寝入りをすべきか迷っていたようだ。

 金銭的な厳しさを言い出せば僕も厳しい状態ではあるのだが、記念すべき初依頼でもあるし、何とかしてあげたい。とりあえずは前金で1万円プラス交通費、呻き声が消えれば成功報酬としてもう1万円というところで話をつけた。

 それが安いのかどうかは僕にもよくわからなかったが、依頼主はそれで納得してくれたので、僕は初めての除霊を行うことを決意した。

 

 困った人は助けろと、昔、祖母にも言われた気がする。

 

 現場は僕の家から車で30分。サラリーマン時代から乗り潰している軽自動車に乗り込み、僕は現場へと向かった。



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