「医者を呼んでくれ!」
……そう言われても、僕も困る。
「なんでもいいから医者を呼べ!」
困惑していると、更に言葉を重ねられた。
しかし僕はどうしたものか、本当に困ってしまう。
とりあえず無視して帰るかと、心は揺らいだ。
* * *
会社が潰れた。
つまり僕は無職となったわけで、つまり気が気じゃない。
今後一体どうするべきか、途方に暮れた挙げ句に知り合いにも逐一相談したが、やはり再就職の宛も難しく、身が軽くなってから既に数ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。
厳しい寒さが穏やかになる頃までには職業案内所へも行ってみようと決意はしていたが、どうしても無職という安寧に心は蕩け、中々一歩が踏み出せない。
やはり暫くダラダラと浸かった自由というぬるま湯に、僕の勤労意欲も既に蕩けてしまっていた。
困ったものだと自分でも自分の怠惰さに恐れをなしていたが、それでも働くよりも寝ていたほうが楽なことは確実なため、やはりどうしようもないのは、結局のところ、やはりどうしようもない。
少しお腹が空いたので自宅の冷蔵庫を開けてみると、野菜室には一体いつ買ったのかも忘れた大根が1本だけ転がっている。
もはや買い物に行くのも億劫で、そもそも気の利いたものを買い漁る経済力も尽きかけていた。
白い冷蔵庫に沈む白い大根を見つめ、やはり思う。
――このままではマズい。
生涯勤勉であれと、昔、祖母にも言われた気がする。
だが、一度サラリーマンという籠から解放されてしまうと二度と戻りたくはなくなるもので、再度働くにしても何か自活できるものはないかと、夢のようなことを考えてしまうのは、やはり仕方がない。
どうせなら何か特技や特性を活かした仕事をしたいと暫く考えた結果、唯一の特技である霊感を活かして除霊師になろうと決めたのは、すでに草木の匂いが雨音に消される程の頃合いだった。
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