家に着き、匂い付きの消しゴムをテーブルに並べて眺めてみる。
……何をしているんだろう。
冷静に考えたら、これは食べ物じゃない、消しゴムだ。
どうしろと言うのだろうか。
どうしようもないので、暫く惚けた。
少し間を置いて、思い出す。
激しい後悔で忘れていたが、確か僕はお腹が空いていたような気がする。
一旦空腹だった事を思い出すと、またお腹が減ってきた。
何かを食べたい。
狂おしいほどの欲求に従うべく、僕は何を食べるかをまた考え、慣習的にテレビの電源を入れた。
夕方の情報番組が、肉特集と称してステーキ店を紹介している。
……やっぱりステーキだな。
初めからステーキにしておけば良かったのだ。
肉を焼いて食えば、まず間違いなく旨いのだから。
そうと決まれば、速やかにスーパーマーケットへ行き、肉を買う必要がある。
これ以上、余計な情報を取り入れてはならない。
僕は学んだ。余計な情報は判断を迷わせる。
出来るだけ外界からの情報を遮断し、迷うことなく肉を買わねばならない。
僕はもう、ステーキと決めた。
他のものには目もくれず、絶対に肉を焼いて食らうのだ。
そう決意してスーパーマーケットへ向かおうとすると、携帯電話が震えた。
友人からメッセージが届いている。
『旨いウナギ屋を見つけたから、行かないか？』
僕は消しゴムを壁へ投げつけた。
どうしろって言うんだよ、もう……
〈了〉
コメント
素晴らしい作品でした！夜中に読んでいてお腹が空いてきました。
話の構成も展開もうまいし、描写も引き込まれます。なにより、食べ物が美味しそう。どれも食べたくなってきてしまう。夜なのに。
オチも秀逸で、まさかまたまた巡りめぐって最初のウナギにゴールイン。笑いました。面白かったです。
主人公の気持ちにもとても共感できるし、なにより文章がうますぎる……小説でこんな飯テロにあったのは初めてです。
素敵な作品をありがとうございました！
群青党支持者様
この度は拙作を閲覧いただき、また、閲覧いただいただけでも身に余る光栄なのに、ありがたいコメントまで頂戴し本当にありがとうございます！
少しでもお楽しみいただき、世の中のウナギの売上に少しでも貢献できたのであれば幸いです。
特に僕はウナギ業者ではありませんが、ウナギの更なる繁栄と、たとえ飯テロであってもテロリストには絶対に屈服しないという確固たる意思を世の中が保ち続けるよう祈るとともに、お礼とさせていただきます。
お誉めいただき、本当に光栄です。
懲りずに今後ともお付き合いいただければ更に大変嬉しいです。
閲覧いただき、本当にありがとうございます。