適当な胃薬を購入し、僕は再び墓地に戻る。
相変わらずナスタニさんは唸っていた。
「ナスタニさん、薬、買ってきましたよ。飲めます?」
「助かる! 礼を言うよ」
腐ったお酒を飲めた以上、薬だって飲めるはず。僕がペットボトルの水と一緒に袋入りの顆粒状の胃薬を差し出すと、ナスタニさんは一気に薬を飲み干した。
「……なんだか少し楽になった気がする」
――いや、そんなにすぐに薬が効くものか。
僕は心の中ではそう思ったが、それは良かった、と返した。
この反応を見る限り、やはりどう考えても腹痛は気持ちの問題で、よく考えれば死んだ人間の体組織がそれ以上死ぬわけもなく、腹痛自体が気持ちの問題なのだと、僕は再確認する。やはり祖母の言うことに間違いは無い。
たぶん大げさなんだ、このオジサンは。
「じゃあ、楽になったついでに、どうです? 成仏してみては?」
呻き声さえ収まればこの依頼は完了なのだが、この大げさな幽霊はまた何かのきっかけで腹痛をぶり返しかねない。であれば、このまま成仏してくれたほうがいいのだと思う。
「いや一応、俺も怨みがあって地縛霊になったので、それが晴れるまで成仏はしたくない」
まぁ実際のところ、オジサンの怨みなんて興味もなく、僕は呻き声さえ収まればそれでいいので、無理にとは言うまい。
「わかりました、じゃあとりあえずお腹は良くなったということで、もう喚かないでくださいね、近所迷惑なんで」
「もし聞こえてた人がいるなら、すまんかったと言っておいてくれ」
根は悪い人ではないようだ。
「そういえば、昼間は喚いてなかったようですが、昼は痛まかったんですか?」
「昼間は寝てるから」
――眠れる程度の痛みなら、やっぱり気のせいなんじゃないだろうか。
僕はナスタニさんに別れを告げ、依頼主に顛末を伝える。
また喚く可能性もあるので、とりあえず2、3日様子を見て、静かになれば成功報酬を、また聞こえるのであれば連絡をくれ、と伝えておいた。
僕は初めての除霊、いや鎮霊だろうか、とにかくそれに満足し、その晩はぐっすりと眠った。
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