日が暮れるのを待ち、再び墓地へと向かう。
墓地へ着くと、ナスタニさんはまた唸り声を上げながら苦しんでいた。
「ナスタニさん、薬、効きませんでしたか」
僕は声を掛ける。
ナスタニさんは呻き声の合間に返事を返してきた。
「いや、よく考えたら人間用の薬が効くわけないんだ、もう君らとは体組織も違うんだ」
――気付いてしまったか。
気が付かなければ痛みは無かっただろうに、気が付いてしまったものだから、また苦しむことになる。
どうせ気持ちの問題なのだから、暫く気が付かないでいてほしかった。
「頼むよ、医者を、頼むよ」
ナスタニさんは情けない声を上げてくる。
しかし、医者には断られてしまったわけで、どうしようもない。
「ナスタニさん、やっぱり申し訳ないんですが、幽霊に往診できる医者は、この世にはいないようです」
「いや頼むよ、痛いんだ、頼む」
痛むはずがないのに、気のせいというだけで人に迷惑を掛ける。これはもはや悪霊の類いだと思う。
「そんなナスタニさんに、今日は良いものを持ってきました」
僕は自宅から持ってきたタッパーケースをナスタニさんに見せ、蓋を開ける。
「……なに、これ?」
「大根おろしです」
「いや、よく意味がわからない」
僕はナスタニさんに説明する。
「昔、祖母に聞いたんです。大根おろしを鼻の奥に詰めると、大抵の痛みは治まるって」
「……いや、あるの? そんなこと」
先人の教えに、間違いがあるはずがない。
「年配の方の教えは、大抵あってますよ。困ったら先人の知恵を信じればいいんです」
ナスタニさんは何か反論を考えているようだが、僕は無視して大根おろしを箸で摘まんだ。
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