おろすか、切るか、へし折るか⑩

おろすか、切るか、へし折るか



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 日が暮れるのを待ち、再び墓地へと向かう。

 

 墓地へ着くと、ナスタニさんはまた唸り声を上げながら苦しんでいた。

「ナスタニさん、薬、効きませんでしたか」

 僕は声を掛ける。

 ナスタニさんは呻き声の合間に返事を返してきた。

「いや、よく考えたら人間用の薬が効くわけないんだ、もう君らとは体組織も違うんだ」

 ――気付いてしまったか。

 気が付かなければ痛みは無かっただろうに、気が付いてしまったものだから、また苦しむことになる。

 どうせ気持ちの問題なのだから、暫く気が付かないでいてほしかった。

 

「頼むよ、医者を、頼むよ」

 ナスタニさんは情けない声を上げてくる。

 しかし、医者には断られてしまったわけで、どうしようもない。

「ナスタニさん、やっぱり申し訳ないんですが、幽霊に往診できる医者は、この世にはいないようです」

「いや頼むよ、痛いんだ、頼む」

 痛むはずがないのに、気のせいというだけで人に迷惑を掛ける。これはもはや悪霊の類いだと思う。

「そんなナスタニさんに、今日は良いものを持ってきました」

 僕は自宅から持ってきたタッパーケースをナスタニさんに見せ、蓋を開ける。

「……なに、これ?」

「大根おろしです」

「いや、よく意味がわからない」

 僕はナスタニさんに説明する。

「昔、祖母に聞いたんです。大根おろしを鼻の奥に詰めると、大抵の痛みは治まるって」

「……いや、あるの? そんなこと」

 先人の教えに、間違いがあるはずがない。

「年配の方の教えは、大抵あってますよ。困ったら先人の知恵を信じればいいんです」

 ナスタニさんは何か反論を考えているようだが、僕は無視して大根おろしを箸で摘まんだ。



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