夜9時。
幽霊もそろそろ呻く頃合いかと、僕は再び現場へと向かった。
車を依頼主のアパートの横へ止めさせてもらい、僕は墓地へと向かう。
墓地の周辺まで来ると、声が聞こえた。
低く、不気味に這いずり回る、濁音混じりに伸びた震える声。
確かに呻き声は聞こえる。
毎晩これが聞こえるのなら、確かに辛いところだろうと、僕は墓地の中へと進んだ。
今までの経験上、幽霊は怨みのない者には直接的な害は加えない。とりあえず幽霊に話を聞いて、それから対処方を考えようと僕は思っていた。
更に進む。
墓地の中央あたりに、幽霊はいた。
幽霊を見て、僕は驚く。
――のたうち回っている。
中年のオジサンと思わしき幽霊が、のたうち回っている。
驚く。
幽霊がのたうち回っているのを、始めて見た。
体質がら、今まで色々な幽霊を目にしてきたわけではあるが、悶える中年は始めて見たので、僕は困惑する。
あまりに珍しい光景に、もしかしたら幽霊ではなく実物の人間ではないかとも思ったが、実物の人間が墓地で悶えている光景も、それはそれで珍しい。それに、このオジサンはうっすらと透けている。
どう見ても幽霊だ。
やはりこれが呻き声の正体なのだろう。
しかし、あまりに苦しそうに悶える姿に、彼が幽霊だとかは関係無しに、僕は心配になる。
祖母にも、困った人は助けろと言われた。その教えに背くわけにもいかない。
声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
幽霊は間髪空けずに返す。
「医者を呼んでくれ!」
――そう言われて、また僕は困ってしまった。
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