味覚の砂漠が狂おしい⑤

味覚の砂漠が狂おしい



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 結局、この世で一番旨いのはラーメンなんじゃないだろうか。

 

 旨くない麺類なんてこの世に存在しないし、そんな麺類の中での圧倒的覇者がラーメンである以上、最高の夕食を望むのであればラーメンこそが常道な気がする。

 ウナギだのステーキだの、高価な食材に背伸びをしようとしていた自分が恥ずかしい。分不相応なものに手を伸ばして取り繕った食事に、はたして心は応対するのだろうか。

 

 決まりだ。

 ラーメンでいい。

 

 いや違う。

 ラーメンがいい。

 

 あともう単純にお腹が空いたので今すぐに何かを食べたい。

 

 信号が青に変わると、僕は脇目も振らず交差点を駆け抜けラーメン屋に詰め寄った。確かこのラーメン屋は昼前から夜中まで休憩時間無しで営業していたはず。さっきのカレー屋のような歯痒さは、ここでは起こり得ない。僕はラーメンを食べるのだ。

 

 『本日、休業日』

 

 休みだった。

 

 店先の看板に大きくそう掲げられていた。

 わりと気持ちの行き場が無い。

 どうしてくれようか。

 

 ……まぁ、いい。

 よく考えたらラーメンは普段の生活に根付いているもので、やっぱり特別感は薄く、最高の夕食に名を連ねるにはまだ時代が悪い。この先、この国と世界が衰退を重ね、ラーメンが贅沢品となった折りに、改めて再評価を下してやる。それまでは自己研鑽に励むように。

 

 それにしても、こうもお預けを食らうと、辛いものがある。早く何かで腹を満たしてやらなければ、不機嫌になってしまう。せっかく気分が良い日だったのに、不機嫌になってしまったら台無しだ。

 僕はラーメン屋を通り過ぎながら、もう一度何を食べるか考えてみる。

 

 ――もう何でも良くなってきた。

 

 どう考え直しても、そこに行きついた。

 とにかくもう何でもいいからお腹が空いた。



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