おろすか、切るか、へし折るか⑥

おろすか、切るか、へし折るか



前ページ

 

「君、俺が見えるんだろ!? だったら頼むから医者を呼んでくれ!」

 幽霊はしきりに、がなりたてる。

 しかし、僕は困る。

 

 ――医者を連れてきても、幽霊が見えないと、どうしようもない。

 

 そう思ったので、僕は返す。

「いや、ちょっと申し訳ないんですが、幽霊と触れあえる医者に心当たりがなく……」

「何でもいいから医者を呼べ!」

 ――だから医者を呼んでも処置できないというのに。

 

「あの、どうされたんですか? なんとかするにも、どうされたかがわからないんです」

「いや頼むよ。腹が痛いんだ。夜になると、腹が痛むんだ。死ぬかもしれない」

 ――無粋な言葉で遮るのは止めておいたが、たぶんもう死んでいる。

 

 というより、幽霊に腹痛なんていう概念があるのを、僕は初めて知った。祖母からは幽霊は痛みを感じないと聞いたことがあるのだが、そうでもなかったのだろうか。


次ページ

コメント

タイトルとURLをコピーしました