味覚の砂漠が狂おしい④

味覚の砂漠が狂おしい



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 立ち止まって少し考える。

 

 ウナギとカレー。

 高いウナギと安いカレー。

 なんだかんだでお財布に優しい方がいい。

 

 良い匂い。

 すごく良い匂い。

 あともう空腹が限界だ。

 空腹時にカレーの匂いを嗅がせることは軽犯罪に分類されると思う。

 

 カレーしかない。

 心は決まった。

 

 そのまま店の中へ吸い込まれていきそうではあったが、時刻はまだ4時。よく見ると店にはまだ準備中の札が掛けられている。仕込み中の匂いが漏れていたようだ。

 是非ともこの心持ちのままカレーの海原へと漕ぎだしていきたかったが、開いていないものは仕方がない。歯痒さはあるが、どうしようもない。

 また出直そうと思う。一度自宅へ戻って着替えてくれば、丁度良い時間になるかもしれない。僕は、はやる気持ちを押し殺し家路に戻った。

 もはやカレー以外には興味が無くなる。例え2日続けてのカレーであっても、昨日は別の店で食べたわけで、今日のカレーとは全く違う。そもそも毎日食べても飽きないのがカレーであって、むしろ毎日カレーを食べないことこそ、カレーへの冒涜になるのではないだろうか。

 カレーに頭が支配され始めた頃、信号が赤になり、立ち止まる。

 交差点の対面を見渡す。

 ラーメン屋が目に入る。

 

 ……ラーメンでもいいかもしれない。

 

 よく考えたら2日続けてカレーは愚かだ。

 破壊的な香辛料の香りから離れ、ようやく僕はカレーの呪縛を断ち切った。



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