そうして夜空に願い続けてから何日目だろうか。
夜風が少し乾き始め、いつの間にか半袖のシャツのもとに虫も寄ってこなくなった頃合いだったと思う。
僕は日課のように8階建ての雑居ビルの屋上に忍び込み、人知れず大手を広げて宇宙の果てへと願いを捧げていた。
僕がこんな反社会的な行為をしていることは、誰も知らないはずだったのだが。
背広姿の男はナスガキと名乗った。
気が付いたら僕の隣で微笑んでいた丸顔で丸刈りの彼は、恐ろしくスーツ姿が似合っていない。
背も低い。眼下の街の光と月明かりしかない、か細い視界ではあるが、僕の胸あたりに彼の頭頂部が望んでいるように見える。
足も異様に短い。少し突き出た腹の下に、猫の尻尾くらいの恐ろしく短い足が生えているものだから、センスの無いプロ野球チームのマスコットキャラクターに見えてしまった。
しかし、いささか風変わりな姿に驚きはしたが、彼が表れたこと自体には驚きは全く無い。
僕は直感した。
ついに来た。
宇宙人が来訪したと。
つまり歓喜せざるを得ないのだと。
僕はナスガキと名乗った男に確認する。
「あの、もしかして宇宙からいらした方ですか?」
男は答える。
「いいえ、違います」
どうやら違ったようだ。
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