大まかにして朗らかな見解を優しさと共に①

大まかにして朗らかな見解を優しさと共に



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「今晩泊めて欲しい」

 嫌だ、と思った。

 

 気分の良い金曜日の夜更け。休日前の最高潮の気分に合わせ酒盛りを目論んでいた頃、学生時代の友人が唐突に訪ねてきた。

 近くに住んでいることもあり、彼とは月に1度は顔を合わせる。そのため特段として郷愁心が刺激されるわけでもなく、それこそ何の感慨も湧かない。だが彼はあまり厚かましい事も言わない常識人であるため、何かあったのかと心配にはなった。

 しかし正直なところでは、ワンルームタイプのアパートで男2人で夜を過ごすのも寝苦しいし、なにより僕は他人が近くにいると上手く眠れなくなるため、できれば断ってしまいたかった。

 

「どうした?  何かあったのか?」

 玄関前でたたずむ友人に聞く。ジャージ姿で立ち更ける姿は、さぞ慌てて家を飛び出したのだと感じる。1人でゆっくり眠りこけたいのが本音ではあるが、緊急時であれば一晩泊めるくらいは構わない。どうしたというのだろうか。

 

「部屋にムカデがいたんだ」

 

 少し考える。

 

 考えて、理解する。

 

「それは大変だ」

 そう答える。

 

 一瞬、その程度のことであればと、叩き帰そうとも思ったが、確かに部屋にムカデがいたらおちおち寝ていられない。彼の気持ちは何となく察する。咬まれたら大変だし嫌だ。多少寝苦しいくらいで彼との友情を汚すことはできないし、困った時くらいは助けてあげたいとも思う。僕は彼を部屋に招き入れた。

 

「で、ムカデはどうした?」

 顛末を確認してみる。

「ベッドの側に落ちてきたんだ。おぞましい。スリッパで潰してやろうとしたんだけど、逃げやがった。たぶんまだ部屋の中にいる。おぞましい」

「燻煙剤でも焚いたら?  あの煙で燻すタイプの殺虫剤。ムカデにも効くんじゃないか?」

「そうしたい。でもそうそう一人暮らしがそんな大層な殺虫剤を常備しているわけもなく、明日買って明日焚くから今日のところは泊めてくれ。奴がまだ蠢いているかと思うと寝られない。おぞましい」

 可哀想ではある。明日は休みだし、一晩くらいは僕も付き合ってあげようと思った。


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