「よくあるってお前……これ金縛りってやつだわ……どうしよう……」
何だか彼は焦っている。だが別に大したことじゃない。そんな些末なことにせっかく寝かけていた頭を覚まされたことに少し苛立つ。
「大丈夫だよ……俺は3日に1回は掛かってるよ、それ。そろそろ起こりそうな間隔だったけど、今回はお前のところに来ただけだ、気にするな」
そんなことで起こしてほしくない。僕はそんな事もう慣れているし、別に何の問題も無いものだと思う。
ようやく眠れそうだったのに。
「いや気にするなって言われても……わりと俺は今パニックなんだが。本当に動けないぞ、これ」
「大丈夫なんだって。息ができないわけじゃないだろ? 現に喋れるし。暫くしたら動けるようになるから。何回も掛かってる俺が言うんだ、信じろ」
話をしたらまた意識がはっきりしてきた。また寝直さなければならないじゃないか。勘弁してくれ。
「確かに苦しくはないけど、全く動けないぞ」
「どうせ寝るだけなんだから動かなくてもいいじゃないか」
ちょっと落ち着けばそのくらいは解るだろうに。
声を掛けるにしても本当にどうしようもない時だけにしてほしい。動けないから何だというのか。別に痛くもなければ気持ちが悪くなるわけでもあるまいし。
「そうかな……まぁ、そうかもしれない。確かに寝るだけだしな」
ようやく解ってくれた。
「害はないから。おやすみ」
「……おやすみ」
大したことでもないのに起こされた苛立ちで、また目が冴えてきた。もう一度頑張って寝なくてはならないと思うと、余計苛立つ。
僕はもう一度意識の淵に降り立つため、気持ちを沈めて目を閉じた。
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