冷蔵庫にあった豆腐とキムチで缶ビールを2本ずつ空けながら久々に2人でテレビゲームに興じたあと、日付が変わって暫く位の時間に、どちらとも無くそろそろ寝ようという流れとなった。
「布団が1つしかないのでコタツで寝てくれ、すまんな」
寒さは大分と落ち着いてきたので風邪を引くほどではないと思うが、快適には眠れないであろう環境を僕は詫びる。春先になってもコタツ布団を片付け損ねていたことが功を奏すとは思っていなかった。
「いや構わんよ。ムカデがいるよりはよっぽどいいし、俺はわりと何処でも眠れるから」
僕を気遣ってなのか本心からなのかは解らないが、彼はそう言ってコタツに潜り込んだ。
僕は部屋の電気を切って、目を閉じた。
少し、眠り辛い。
やはり他人が近くにいると、何だか普段とは異なる環境に緊張しているのか、なかなか意識が影を潜めない。
頑張って寝ようと思えば思うほど、意識が自己主張を始め、輪郭がぼやけない。しかし朝まで眠らずじっとしているのも辛いものだ。上手く眠りたい。何とか眠りに就こうと、僕は必死に何も考えないよう努めた。
眠れない。
眠れない……
眠れそうだ……
いやそんな事を考えてる時点で眠れない……
頑張れ。眠れ。
眠れ……
そうだ……眠れ……このまま行けばたぶん豚肉が余るから……除菌シートと一緒に持っていかないと古本屋が大変なことになる……
どのくらい経ったのかはわからないが、ついに意識の混濁の中で理屈の合わない妄想が研鑽され始める。もう少しで眠れるのではないだろうか。
そんな中、彼が突然呟いた。
「あのさ、寝てたらごめんだけど」
言葉を受けて僕はまた意識の表層へと引きずり出された。
「なんかさっきから体が動かないんだよね」
あぁそれか、と思った。
「あぁ……よくあるよ。気にするな」
引き上げられた現実にまだ意識の輪郭がはっきりとしないが、大したことではなかったのでぼんやりとそう答えた。
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