「じゃあ、やっぱり大魔王をぶっ飛ばしてくださいよ、そうすれば自然と私の格付けも上がります」
秘書は本気になってきたようだ。そんなに自分の立ち位置が気になるものだろうか。意外と自尊心が高い秘書の一面に、魔王は少したじろぐ。
「でも、そもそも勇者がここへやって来ないから、協力しようという打診もできない」
「別に勇者なんていなくても、魔王様だけで倒しに行けばいいじゃないですか。とにかくぶっ飛ばしましょうよ大魔王を。腐っても魔王でしょ、アンタ」
アンタという単語に引っ掛からなかったわけではないが、魔王は出来るだけ気にしないよう努めた。
「でも強いよ、大魔王」
そのうえで、魔王は不安を吐露する。
「じゃあ何か武器持ってきましょうよ、武器。殺意ゴリゴリの武器持ってけば、大魔王もビビりますって。意外と何とかなりますよ」
秘書が無責任に煽る。
「武器か……どんなのがいいんだろう?」
「普通に考えれば、大魔王を倒すに値するのは伝説の剣とかですかね」
「でも僕は魔王として育ってきたので、剣なんか使ったことがない。できるだけ素人でも扱いやすい武器がいい」
魔王は杖しか使ったことがない。魔王は杖を使うものだと幼少期から教え込まれてきたので、魔王が知る武器術は杖を使った護身術だけだった。
「じゃあ鉄球とかどうですか? トゲ付いたデカい鎖付きの奴。適当に振り回せば迫力ありますよ」
秘書が提案してくる。
「あぁ……アレ、たまに使ってる奴いるけど、ちょっと何考えてるかわからない。人にデカい鉄球ぶつけて潰すとか、単純な殺意だけじゃなくて狂気も孕んでるよね、アレ。わりと引いちゃう。あと重そう。それに鉄球で大魔王が倒せる絵が思い浮かばない」
「……面倒臭いな」
秘書は小声で呟いたが、しっかりと魔王の耳には届いていた。
魔王が反論するかどうか迷っていると、秘書は続けて提案してくる。
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