「カッコいい散り様ってどんなのですか?」
欠伸を噛み殺した以上、おそらく興味が無いであろうことは魔王にも容易に想像できたが、せっかく聞いてくれたので魔王は答える。
「そうだな……仁王立ちで往生するとか……こ、こいつ……立ったまま死んでやがる……とか憧れるよね」
「他には?」
「あとはそうだな……爆死とか派手でいいよね。できれば空中で爆発四散したい」
「……やっぱり死にたいんじゃないですか」
「いや、そうは言わないけどさ……」
決して死にたくはないのだけれど、魔王としての本懐は遂げたい、という矛盾を孕んだやるせない思いが中々伝わらず、魔王はもどかしく思った。
「まぁつまり早く勇者が来てくれないと魔王っぽいことができないので寂しい、ということですか?」
「そう、それ。でも、そんなに勇者って現れないものなの?」
魔王は秘書に尋ねた。
「いえ、結構現れてるみたいですよ。年に5、6人くらい」
結構な頻度で湧いていたことに魔王は少し驚く。
「え、そうなの? じゃあ何で1人もここに来ないのさ?」
「ここに辿り着く前に、皆ボコボコにされて帰っちゃうみたいですよ」
「えぇ……何でそういう酷いことをするかな……信じられない。誰? そんなことする奴」
魔王は魔物達の野蛮さに嫌気が差した。
「ほら、魔王様の部下の四天王の1人に、ヤバい奴いるじゃないですか。あの筋肉ムキムキで3メートルくらいのデカい奴。勇者が湧いたと聞くと、いの一番にあいつが駆けつけてボコボコにするらしいですよ」
陰口のような流れになると、急に秘書が饒舌になった。
「えぇ……あいつ四天王の中で最強の奴でしょ……ダメだよ、最初に出ていっちゃ」
「あいつ、戦闘狂のヤバい奴ですからね。『血が俺を求めてるんだ』とか言っちゃってますよ、気持ち悪い。『グヘヘヘ』とか言って笑いますし。『グヘヘヘ』ですよ? いるんですね、そんな笑い方する奴。いや絶対わざと言ってますよ、普通に笑ったらそんな声出ませんもの、気持ち悪い。キャラ作りに必死過ぎて気持ち悪いですし、頭おかしいですよ、あいつ」
秘書の悪口が止まらない。もしかしたら2人の間に何かあったのかもしれないが、おそらくは秘書の口が悪いだけな気もする。そう思うと、一体僕は陰で何と言われているんだろう、と魔王は戦々恐々となった。
「でも仮にも勇者を名乗るなら、四天王くらいは倒してほしい」
魔王は気を取り直して勇者を応援した。
「でも、あいつ、3メートルですよ。無理でしょ、普通に考えたら人間には。そりゃボコボコにされますよ」
「まぁ、そうだよね……結局デカい奴が強いよね」
魔王は諦めるしかなかった。普通に考えれば、やっぱり人間では3メートルには勝てない。仮に自分の前に3メートルのマッチョが現れたら、恐れおののくかもしれない。1.7メートルの魔王は想像しただけで身震いした。
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