十数分後、魔王が玉座の間に戻ると、待っていた秘書が声を掛けてくる。
「どうでした?」
「ミサイルランチャーを見せつけたら、ビビって帰っていった。やっぱり凄いね、ミサイルランチャー」
「それは良かったです。でも勇者を倒してしまった以上、やはり魔王様が勇者になって大魔王をボコボコにする、ということでよろしいでしょうか?」
秘書に確認される。
「まぁ、そうだね……つい勢いで勇者倒しちゃったし。僕がやらなきゃならない気がする、勇者として」
「頑張ってきてください、勇者様」
秘書に応援される。
しかしなんだか他人事みたいな言い草に魔王は少し引っ掛かった。
「あれ……もしかして、君はついてきてくれないの?」
念のため、魔王は秘書に確認する。
「行きませんよ。もし負けたらこの業界での再就職はできなくなりますし」
「……まぁ、そうだね」
万が一大魔王に敗れれば、魔王もおそらく復職できなくなる。
そう思うと、急に怖くなってきた。魔王は魔王以外の生き方を知らない。もし自分が魔王という立場を失えば、一体どうやって生計を立てればいいのだろう。であれば、例え現状に少しくらい不満があろうと、我慢して今を続けたほうが無難ではないか。魔王は冷静になって考え直した。
「やっぱり安定って大事だよね……僕もそう思う」
堅実に生きよう。魔王は勇者を諦めた。
「まぁ、変に勢いで行動するとろくなことになりませんからね。あと、暫く言いませんでしたが『僕』は止めてください」
「……努力します」
魔王はもう、色々と諦めた。
〈了〉
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