船は落下速度を抑え、水平飛行に移る。
僕は携帯電話の電波状況を確認し、電話を掛けた。
「……眼科、終わった?」
通話が始まるとほぼ同時に、彼女は言う。
僕は返す。
「そうだね、ちょっと時間が掛かったけど、終わったと思う」
「……ねぇ、今どこにいるの? 結構心配してるんだよ」
僕は操縦席に表示された地図を見渡す。
「どこだろう。アメリカ、もしくはアフリカくらいかな……」
「またそうやってはぐらかす…… 深くは聞かないけど、もう大丈夫なの?」
彼はきちんと掃除をしたのだろうか。
どういうわけか、今更そんなことが心配になってきたけど、きっと彼は掃除してくれていると、すぐに気持ちに蓋をした。
「あぁ、そうだね…… すぐに帰るから、盛大に祝ってよ」
「……わかった。任せてよ」
彼女達からすれば、僕は大罪人なのだと思う。
卑怯者とも言えるかもしれない。
でも少なくとも後悔は無いし、僕はもう選んで、もう決めた。
少しだけ間をおいて、僕は彼女に言う。
「これからは、死ぬまで一緒だよ」
きっとそれ以上は、望んではいけない。
鮮やかに染まる朱色の雲の向こうに、緩やかな帳が待っていた。
〈了〉
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