自室で必要な荷だけを簡単にまとめ、エレベーターで最下層に降りる。
最下層は緊急脱出用のハッチだけしかなく、エレベーターを降りると、目の前には小型の脱出艇が肩身狭そうに待っていた。
操縦席に潜り込み、タッチパネルへ地球の座標を入力する。もう随分と地球を離れていたが、到着予測時間は1時間程だった。向こうはそろそろ夜だろうが、これなら日付が変わる前に帰ることができる。
発進ボタンを押す前に、本当にこれで良かったのかと、また少し考えてしまったが、そんなことはもうわからない。
わかることなんて無いのかもしれないとも思うが、世の幸福の総量は、きっと一定なのだと、僕は深くは考えずに発進ボタンを押した。
程なく、黒くて明るい空間の向こうに、青くたゆたう細い明かりが見える。船は明かりに吸い込まれるように暗闇を進んだ。
地球に近付くと、すぐに空気との摩擦で、少しばかりの衝撃と共に船が軋む。
揺れが収まると、平面だった窓の外が丸く見え始め、無事、大気の中へと帰ってきたのだと、僕は安心し、少しだけ不安になった。
窓の外に広がる景色が地平線なのか水平線なのかは雲に隠れて判別できない。でも、少なくとも綺麗だと、僕は思った。
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