上空、帰る①

上空、帰る



他作品へ

 

「今どこにいるの?」

 

 ……どう答えるべきだろう。

 電話口で、僕は悩んでいた。

 

 

「歯医者だよ」

 少し考えた結果、とりあえず僕は嘘をつくことにする。

 

「……もう少し考えて嘘をついてよ。歯医者で3日もいなくなるなんて、おかしいじゃない」

 でも、すぐにバレた。

 

「いや本当だよ。今まさに治療中なんだ」

「どうやったら歯を削りながら電話ができるの……」

 ……そうなのか。僕は歯医者に行ったことがないので、そのあたりのニュアンスがよくわからない。

「じゃあ眼医者にしておいて」

 眼医者なら治療中にも電話はできるかもしれない。

「……なんなの、それ。なにが死ぬまで一緒だよ、なの。適当な勢いでそんなこと言って、言ったそばから全然会ってないじゃない」

 そういえば、何かの勢いでそんなことも言った記憶がある。マズいな、怒らせてしまったのかもしれない。

「まぁ何か事情があるのでしょうし、別に揚げ足を取るつもりはないけど、あなた今日誕生日でしょう? お祝いしたいんだけど、今日はもう無理かな?」

 

 ……そうだったっけ。そういえば、そんな設定にしていた気もする。

 

 どう答えるべきか、少し悩んでいると、携帯電話の電波は途切れてしまい、水平で耳障りな機械音だけが耳に響いてきた。



次ページ

コメント

タイトルとURLをコピーしました