上空、帰る②

上空、帰る



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 しかし、どうしたものだろうか。

 

 まさか今日を僕の誕生日にしていたとは、完全に忘れていた。暫く会えていないこともあり、少し怒らせてしまっている気もする。でも、それでも祝ってくれるというなら、やっぱり祝ってもらったほうがいい気もしたし、祝ってもらいたい気持ちは充分にある。

 

 なにより、確かに最近あまり会っていない。

 

 色々と忙しかったというのもあるし、やむを得ない事情も多々あった。しかし、出発する前に、きちんと話をしておくべきだったのは間違いないわけで、そう思うと、やはり恋しくもなってくる。せっかく誕生日を祝ってくれると言うのだから、何をおいても帰るべきだ。

 

 しかし、今から帰ることは可能なのだろうか。

 

 流石に難しい気もしているが、祝ってくれると言っている以上、もし帰ることができるのであれば、出来れば今日中に帰りたくなってきた。明日になると、僕の誕生日はもう終わってしまう。今は夕方くらいだろうか。

 だとすれば、急ぎたい。

 

 僕は帰宅の可否を確認するため、上司を探した。

 おそらく、上司は喫煙室に違いない。

 

 一仕事を終え、自分の手が放れると、彼はいつも早々に喫煙室へ引きこもる。実際の労働時間は僕の半分以下なんじゃないかと疑いたくなるくらい頻繁に引きこもるので、居場所は容易に想像がついた。

 こういう時代の流れなのだから喫煙所なんて速やかに撤去すればいいと思うのだが、基本的には彼と僕の2人で行動するものだから、どうしても上司である彼の意見は尊重されてしまうし、せざるを得ない。パワーバランスとはそういうものだ。

 そのあたりに関して苛立ちが無いかと言えば嘘にはなってしまうが、彼は決して悪い人ではないし、なんだかんだで色々と部下である僕に対する一定の理解もあるので、嫌いではない。むしろ話のしやすい良い上司なのだとも思っている。

 だからこそ、僕の帰りたいという欲求に対して、もしかしたら一定の理解は得られるかもしれないと、少し期待しながら喫煙室へと向かった。



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