息子は続ける。
「もう少しすると、ヘロドトスに所縁のある土地の遺跡から、古代のウィルスが付着した遺物が掘り起こされてインフェクションスプレッドするんだけど、ヘロドトスもインフェクションスプレッドも何だったのかが思い出せないんだ」
よくもまぁ、舌を噛まずに言えるものだ。才能を感じる。
「確かアポロエピクリオスとかいう遺跡だったと思うんだけど、それが何処なのかも忘れてしまった」
その名前は自分で考えたのだろうか。想像力も豊かだ。才能を感じる。
「そのきっかけになる人物は、近くにいるはずなんだ。それだけは覚えている。でも誰だったかは記憶から抜けてしまったんだ」
息子の演技には凄みがある。才能を感じる。
「俺が止めなきゃいけないんだ。助けてほしい」
よくわからないが、ヘロドトスやら遺跡云々言ってることを考えると、たぶん歴史が好きなんだろうな、ということは理解した。
そういえば今度、遺跡の発掘調査の土木作業員として、ギリシャに出張する予定がある。
本当は許されないのだけれど、歴史好きの我が子のために、何か発掘されたらこっそりと土産として持ち帰ってあげたい。
きっと息子は喜んでくれるし、例え僕がヘロドトスを知らなくても、見下されることはないだろう。
だとすれば、父から子へ伝えるべき言葉はただ一つ。
「よぉし、全部お父さんに任せとけ!」
ばっちり決まった。
〈了〉
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