彼は新しい煙草を一吸いし、眉間に少し皺を寄せながら煙を吐き出す。気持ち良いのかどうか、表情からではよくわからない。
煙を吐き切ると、彼は続けた。
「ということで地球人は殲滅しなければならん。我々が生きるために、だ。例えお前の彼女であっても奥さんであっても赤ちゃんであっても、例外なく、だ。例外を作れば、余計な禍根を残す。共存を拒否された以上、全て排除しなければ、いずれ困ることになる。だからさ、とりあえず忘れたほうがいいぞ、お前のためにも」
もう一度彼は煙草に口をつけた。
「でも、良い子なんですよ」
「いやだから」
僕の反論に即座に応対した彼の口元から煙が漏れる。煙が喉に引っ掛かったのか、言い切る前に少しむせた。
彼が続きを言う前に、僕が続けた。
「いや別に彼女を特別扱いしろ、とか、やっぱり地球人との共存を目指しましょう、とかを言うつもりは無いですよ」
「そうだ、わかっているじゃないか。共存は無理だ。拒否されたじゃないか。各国の偉い人に何度も打診したけど、皆、他の国に言ってくれ、うちは無理、だった。たかが3億人だぞ、こっちは。住む場所が全く余ってないわけじゃないぞ。砂漠だって別に何とか出来るんだ、こっちは」
彼は少し語気を強めて言った。各国をたらい回しにされた挙げ句、どこにも拒否されたことに、憤りがあったようだ。そこには正直、僕も憤っている。
彼は煙を吐き出し、続けた。
「まぁどこも自分達のことで必死なのは理解したが、裕福そうな国でもそれだ。根本的に、自分と違う者が嫌いなんだよ、彼等は。相対的な自己評価が文化と文明の基盤だから、自己と他の隔絶が激しいんだ。お前の彼女だって、お前が自分と違う存在だと知ったら、どうなんだか、わからないぞ」
そうはならないで欲しいとは思うが、確かに、実際はどうなるのかはわからない。
嫌な想像を少しだけして、僕は悲しい気持ちになった。
「でも、良い子なんです」
「いや、だからそれは……」
「でも、祝ってくれるんです」
でも、祝ってくれるのだ。
僕は少し、語気を強めた。
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