味覚の砂漠が狂おしい①

味覚の砂漠が狂おしい



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 ウナギなのかステーキなのか。

 

 2つを同時に食べられない僕は、なんて不自由なんだろう。

 

 日が少しだけ傾きだした彼岸の頃。秋風が静かに土の匂いを運んでくる。

 どういうわけか仕事が昼過ぎに片付き、僕は早めの帰宅を許された。特に何かをする予定も無いが、日があるうちの帰宅というだけで気分は最高潮なので、こんな日はせめて素敵な夕食を食べたいと思う。

 そもそも昼食を摂らずに一気に仕事を片付けてきたので、僕のお腹は今にも両面がへばりつきそうな位に軽い。だからこそ、今日の夕食には気持ちが入る。

 

 僕は最寄り駅を降りてから自宅までの道中、何を食べたいかを歩きながら考えた。

 一人暮らしの夕食とは言え、食事内容はやはり真剣に悩まなければならない。ましてや昼食抜きで過ごした日の夕食は拘りたいし、人の儚い生涯の内、食事の回数は有限であることを考えれば、一食たりとも無駄にしてはならないのだ。そしてやはり、こんなに晴れ晴れとした日の締め括りは、文句無しの完璧な夕食にする必要がある。

 

 少し考えた。

 2つの選択肢が浮かぶ。

 

 ウナギか、ステーキか。  

 そんなに贅を尽くしてもいいものだろうか。



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