味覚の砂漠が狂おしい②

味覚の砂漠が狂おしい



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 いや、この際、金銭的な懸念はどうでもいい。お金なんかを出し惜しみをしていたら最高の夕食など程遠いし、そもそも金額的な高低は僕の欲求には何の関係も無いのだ。食べたいものがたまたま贅沢なものだった、ただそれだけの事で。

 

 問題は、ウナギかステーキか、どちらを食べるか、だ。

 

 少し考える。

 昨日はカツカレーを食べた。

 であれば、同じく肉であるステーキは少し分が悪い。カツカレーのメインをカレーと取るかカツと取るかで解釈は割れそうだが、トンカツを食べた翌日に牛ステーキを食べるのも、なんだか浅ましい気もする。別に僕は成長期ではない。

 

 となればウナギだ。ウナギしかない。どう考えてもウナギが食べたい。

 

 一旦頭の中がウナギで落ち着くと、もはやウナギ以外に興味が無くなる。ウナギの舌になってきた。香ばしく焼き上がった甘辛くて深み極まる蒲焼きを、大盛りの白米に乗せて、あんぐあんぐとかきこむのだ。圧倒的な迫力と強い強迫観念を兼ね備えた力強いその味は、まるでムンクの叫びのように人の記憶に留まり続ける。ウナギこそが、この荒んだ現代社会を救世すべく神が与えたもうた黄金の実なのかもしれない。

 

 そうだウナギだ。ウナギを食べるのだ。

 もしかしたら僕はウナギを食べるために生まれてきたのかもしれない。

 

 僕はウナギを食べるのだ。



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